2024/12/18
世界からエアコンが消えたことで、夏場の電力需要は一見落ち着いたように思われるが、実際には扇風機をはじめとする「送風デバイス」に対する需要が急増したことで、電力消費が「分散」するような形となった。従来であれば、オフィスや家庭でエアコンをドンと一台稼働させるだけで室内全体を快適にしていたのが、今や部屋ごと、あるいは人ごとに複数台の扇風機が稼働する状況になっているのだ。そこで注目されるのが、エネルギー源の多様化と扇風機の高効率化である。
まず、再生可能エネルギーと扇風機の組み合わせは極めて相性が良い。比較的少ない電力で稼働し、バッテリーの小型化や省電力モーターの進化を組み合わせることで、太陽光パネルや小型風力発電といった供給源からの電力のみで十分に稼働できるようになってきた。特に、昼間に稼働させたい扇風機と、日中に最も発電効率が高まる太陽光パネルの組み合わせは理にかなっている。日照が強ければ強いほど室温は上がり、人は涼を求める。その一方で、太陽光発電量も増えるため、電力不足に陥ることが少ないのである。
また、エネルギーの地産地消を実現する上でも、扇風機は重要な役割を果たす可能性がある。エアコンが主流だった時代は、大規模な発電所から一括して電力を供給する仕組みが一般的であったが、エアコン消失後は家庭や地域単位でのエネルギー自給が必要とされている。大がかりな冷却装置ではなく扇風機を中心に据えた cooling(涼房)のためのエネルギーを、ソーラーパネルや小型風力発電、あるいは蓄電池と組み合わせてまかなう。これにより、大規模インフラへの負担が軽減されるだけでなく、地域特性に応じた最適なエネルギー利用が可能となるわけだ。
さらに、再生可能エネルギーの活用は扇風機だけにとどまらない。たとえば、電動バイクや電動自転車を駆動するバッテリーと扇風機の電源を兼用し、移動先でも涼を得られるようにする仕組みも見られる。イベント会場や農地など、エアコンを導入するには大掛かりな設備が必要となる場所でも、ポータブル扇風機と再生可能エネルギー発電をセットで導入することで、簡易的なクールスペースをどこでも実現できるようになった。このような「モバイル風力・太陽光システム」とでも呼ぶべき新たなインフラが、扇風機の普及とともに発展し、多くの人々の生活を支えている。
一方で、再生可能エネルギーの不安定さをどう克服するかという課題も存在する。天候が悪ければ太陽光発電量は落ち、風が吹かなければ風力発電は期待できない。そうした不安定要素をカバーするために活躍するのがバッテリー技術だ。リチウムイオン電池を中心に、急速充電や長寿命化の技術が進み、加えて次世代蓄電池の研究も着々と進行している。扇風機自体の省エネルギー化と相まって、晴れた日に蓄えた電力を夜間や雨天時に回すことで、エアコンがなくとも持続的に風を享受できる環境が整いつつある。
扇風機がここまで社会に不可欠な存在となった背景には、このように再生可能エネルギーや蓄電池技術との相性の良さが大きい。決してエアコンのように室温を一気に下げることはできないが、人間の体感温度を下げるという目的では十二分の効果を発揮する。しかもエネルギー負荷が比較的軽いため、環境にもやさしく、地域やコミュニティ単位で柔軟に運用できるのだ。こうした「小さなデバイスの大きな可能性」は、今後も持続可能な社会に向けた大きなヒントになっていくだろう。
次のトピックでは、さらに利用シーンを拡張し、住宅やオフィスだけではなく、農業や医療、さらには災害時など非常時における扇風機の活用がどのように展開されているかを見ていく。