涼しい僕たちは扇風機を使う

扇風機が生み出す風とカルチャーを探求しています。

福風機

time 2025/02/02

たとえば、扇風機の「扇」が福岡の「福」になって福風機となり、幸福の風を福岡じゅうに届ける家電があればいいですね。
 

「おばあちゃん、これ何?」

私は祖母の家の物置で見つけた古めかしい扇風機を手に取った。普通の扇風機とは少し違う。羽の部分が透き通るような淡い青で、ベース部分には「福」の文字が金色で描かれている。

「あら、それは福風機よ」

祖母は懐かしそうに微笑んだ。

「福風機?」

「そう。昭和の終わりごろね、福岡の小さな町工場で作られていたの。扇風機の『扇』を『福』に変えて、幸せの風を運ぶっていう謳い文句だったわ」

私は興味深そうに福風機を眺めた。スイッチを入れても動くのだろうか。コンセントを探して差し込んでみる。

カチッ。

予想に反して、すぐに動き出した。羽が回り始めると、薄青い羽から淡い光が漏れ出す。そして不思議なことに、その風は確かに、どこか懐かしい香りを運んでいた。

「これね、ただの扇風機じゃないのよ」

祖母が続けた。

「作ったのは、中洲の電気屋さんだった私の父、あなたのひいおじいちゃん。戦後の復興期を経て、人々が少しずつ豊かになっていく中で、『道具には魂が宿る』って信じていた人だったの」

私は黙って聞き続けた。風は部屋の中を優しく巡っていく。

「父は考えたのよ。ただ涼しい風を送るだけじゃない、人々の心まで癒すような家電を作りたいって。そうして生まれたのが福風機。特殊な素材で作られた羽は、風と一緒に小さな光の粒を放つの。その光が人々の心を明るくする、そう信じられていたわ」

祖母の話を聞きながら、私は風に当たっていた。不思議と、心が落ち着いていく。まるで優しい手が頭を撫でているような感覚。

「でも、大手メーカーの扇風機には価格で太刀打ちできなくてね。結局、数百台作っただけで製造中止になったの。今じゃ、骨董品として探している人もいるらしいわ」

私は福風機のモーター音に耳を傾けた。現代の扇風機とは違う、どこかノスタルジックな音色。その音を聞いていると、古き良き時代の空気が伝わってくるような気がした。

「おばあちゃん、これ、まだ動くんだね」

「ええ、父の作ったものだもの。壊れるはずがないわ」

祖母の誇らしげな表情が印象的だった。

その日から、福風機は私の部屋で動き続けている。夜、仕事で疲れて帰ってきた時、この風に当たると、不思議と心が癒される。光の粒は、まるで天の川のように私の周りを漂い、優しく包み込んでくれる。

つい先日、友人が遊びに来た時のこと。

「これ、珍しい扇風機だね。どこで買ったの?」

「ひいおじいちゃんが作ったんだよ。福岡の町工場で」

「へえ、でもなんか いい風だね。なんていうか…幸せな気分になる」

私は微笑んだ。

この福風機は、単なる古い家電じゃない。匠の技と、人々を幸せにしたいという想いが詰まった、小さな奇跡。今も静かに、幸福の風を送り続けている。

私は時々考える。現代の便利な家電には、こういった温もりがあるだろうか。技術は進歩しても、道具に込められた想いの深さは、むしろ昔の方があったのかもしれない。

窓の外では、博多の街に夕暮れが降りてきている。福風機の放つ光の粒が、部屋の中でいっそう輝きを増した。まるで、夜空に瞬く星のように。

 
こちらは福岡の扇風機レンタルです

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