2024/12/18
季節は移ろい、秋の訪れが近づいていた。依然として残暑は厳しいが、夕方になると少しずつ涼しさが増してくる。亮は扇風機を前に考えていた。人を幸せにする扇風機の使い方とは何だったのだろう。風に当たることで身体を癒し、香りや音楽を運ぶ媒体としての役割、家族や仲間と共に囲むことで生まれる繋がり、過去の思い出を呼び起こす心の扉。そして、それらは最終的に「未来」へと続いていく気がするのだ。
扇風機は単なる冷房器具ではない。自然の風が届かない場所で人に風を与える「小さな自然」であり、それを通して人は日常にゆとりを見出す。アロマと混ざった風は感覚を豊かにし、思い出と繋がる風は心を温め、皆と分け合う風は絆を強める。その一つ一つが、人を幸せにする。つまり、扇風機は「風」という原始的かつ普遍的な要素を扱うことで、人間の本質的な幸福感を喚起する装置なのだ。
未来は複雑さを増し、テクノロジーは高度になるだろう。それでも、人は風を求め続けるだろう。自然の心地よさ、五感を刺激するささやかな工夫、そして記憶や人間関係を紡ぐための穏やかな呼吸。扇風機はその単純な構造にもかかわらず、こうした「幸福の回路」を作り出す鍵になり得る。
亮は部屋の窓を開け、外から入る初秋の風と扇風機の風を重ね合わせる。扇風機は首を振り、まるで「これからもよろしく」と言わんばかりに、優しく風を送り続ける。その風に包まれながら、亮は微笑む。人を幸せにする扇風機の使い方は、特別な秘訣ではない。ほんの少し工夫し、想いを込めるだけでいい。そして、その風に身を任せたとき、人は自分が本当に求めているもの――静かな安らぎ、豊かな感性、家族との対話、そして過去と未来を結ぶ心の軸――を再発見するのである。
そうして風が紡ぐ未来に向けて、扇風機は今日も静かに回り続ける。